破り捨てて | Sadistic Erotomania

破り捨てて

例えば、とても幸せだと感じたら「どうして幸せだと感じるのだろう」と、せっかくの幸せが勿体無いくらいに考えていた。
自分のこと、相手のこと、他人のこと、過去のこと、未来のこと、仕方なく今のこと。
無駄だ、と片付けられても構わないようなことも考えていた。

ここ何年か、考えることが少なくなったように思う。
思うだけで、それが本当かどうかは考えてもいない。

直感と感性だけで生きていると言いながら、実際は直感と感性で動いたあとに、しっかりとその分析を行い、その後似た場面に直面すると経験と知識で直感と感性を生成していたような、まあ、くどいけれどそういう回路であったような、そもそも直感と感性は過去から養われるだろうと思うような、思わないような。


それなのに、最近は本当にもう、何も考えない。

考えているようで考えていない、ということはなさそうな。


喜怒哀楽に沿ってきちんと生きている。
もちろん喜怒哀楽の激しさは昔から誇っているが、昔からそれを前面に、表情に、しぐさ行動に表していたかというと、そういうわけではない。
一般的に「おかしな人!」と思われないようにかけるフィルターを、一般的な量の5倍はかけて、逆にそれっぽく表していた。

だけれども、最近はそのフィルターすらも危ういような、かけ忘れているような感覚。

知らないうちにどこか病気になってしまったのかしら、ボケちゃったのかしら、と思うくらいに直情的な行動をする自分に驚く。
周りの目を気にしない人間が、
更に程度が悪く、周りの人間を無視し始めたといっても過言ではない。

嬉しければ顔の筋肉はゆるゆるだし、悲しければ眉は垂れ下がる一方で、怒っていれば物にも当たるし、辛ければ動きは普段より3倍は緩慢になる。
なんなんだろう、これは。
老化現象で片付けていいものだろうか。

会社でもその有様だというのだから、
恋人に至っては「感情のみで応酬する女」と思われているかもしれない。

ああ、もうどうしよう。

わたし、もうちょっとまともに生きていくんだと信じていたのに。



その有様が顕著に現れ、尚且つわたしの可愛さアピールに繋がるエピソードと言えば、恋人と別れるときだ。

大概その日の終わりはわたしの家で過ごし、またね、の挨拶は玄関でするのだけれど、十中八九、泣く。
ひきつり泣きではなく、「帰っちゃうのか」と思うと、ボロリと涙が落ちる。

「それだけ想っているのね」で片付けらるものなら、いくらでも片付ける。

そうじゃない。
本当に毎回毎回、玄関でなくても、駅の改札前でもそう。

悲しい寂しいと思うと、眼球の裏から水分が表に回ってきて、ついには表面張力が負けるのだ。
知らずに涙が流れるのではなく、悲しい寂しいと思うから泣いてしまう。


それは、非常に健康的だ。


「これ根岸君から貰ったんだなあ」と思うと、いてもたっても居られずに、「これ根岸君から貰ったの!いいでしょう!」と根岸本人にぶちまける。
根岸本人に惚気ているつもりも、嬉しがらすつもりも微塵もない。
ただもう、貰って嬉しかった気持ちを溜めて置けない。

会社で自分が情けないと思ったときのことを思い出すだけで、鼻の奥がツンとして、しかもそれが悟られるくらいの情けない表情満々で、しまった!と気付いても口元はへの字から回復しない。
会社帰りの電車の中でも、よくそんな顔になる。

怒り出しても、怒っている気持ちを悶々と抱えられず、「わたし怒ってるんですよね!キミは意地張ってるかもしれないけど、わたしだって意地張ってんだよね!だからそっちから謝ってくんないかな!?」と、至って本人本気の切れ具合を、あまりの頭の悪い切れっぷりに笑われて喧嘩は収束…、

となれば素敵ですが、益々怒り心頭で「ああどうせおかしいだろうさ!だけど怒り過ぎて黙ってらんないんだよ、なんなの!?怒り方にも文句あるの!?キミがさっさと謝ればいいって諌める方法言ってんのに、なんなの!?」と、『どうしてわたしの言うこときかないの!?』状態を隠すことなく、ありのままに。

可愛いアピール、残念にも面倒な女アピールになりつつあります。


しかし、たぶん、非常に健康的だ。


なんだろう。
わたしはどんどん馬鹿になってっちゃうんだろうか。
もうちょっとうまく立ち回れていたような気がするんだが、もうそんなこと出来ないのだろうか。

心配過ぎて、わたしのことは常に全肯定の根岸君に相談してみた。

「わたし最近ずっと感情の赴くままで、特にキミには多大な面倒を掛けているのだけれど、この状況をどう打破すればいいと思いますか、そう、一応は打破したいと思っているんです、でも全てを吐き出したほうが楽だと気付いたというのも本当で、あ、でもキミに迷惑なことしたなあ、とかは思うんだよ、だから悪気がないで済ませるつもりはないからちゃんとキミの意見を交えて今後の方針を組みたいんだけど、どうかしら?」




『……黙っていればいいんじゃないの?』

「!!!!!!!!!!!!!?!?!?!?」



「なんだよなんだよいくらマリカーやってて相手に出来ないからって!そんな言い方ないじゃんって黙っていればいいいんじゃないのって!?それが出来ないから困ってるんだし!黙ることで会社でも給料貰ってキミとも円満で全て解決するなら死ぬ思いで黙りまくりますよ!!!あとは全部筆談とジェスチャーで生きていくんだから!!!ちょっとちょっとマリカーとわたしどっちが大事なの!?って比べられないってか!?比べられないってか!?くーらーべーてーよー!!えーらーんーでーよー!!ピーチなんて毎回毎回クッパに誘拐されては、いやらしい宴が毎晩毎晩とり行われてるんだから!!獣!姫!桃!!!

そしてレインボーなロードでガンガン落ちまくって奇声を上げる根岸くんのことも、感情をぶつけるタイミングもまったく気にしない、俗に言うKYっぷりにも磨きがかかっております。


自分の在り方に不自由を感じつつも、まったくストレスがかからないので、
これはこれで、
いいかなー、
みたいな。


今なら、「貴方って悩みなさそうねー」と脈略もなく言い出した人のことも許せるわ。

悩みと言えば、ここまで素直になれたのに、「ピーチは絶対にクリボープレイ経験済みよね」って言えなかったわたしの乙女回路くらいなもんですよ。